問題は今日の雨。傘がない。

雨が降った。行きにはなかった雲が帰りにはあった。灰色の雲が大粒の雨を降らせた。

傘を忘れた。友人の傘に入れてもらった。私が傘に入ると、友人は少し嫌そうな顔をした。気のせいかもしれないけど、気のせいじゃないかもしれない。彼とはさほど仲良くない。ふわふわとしたダウンジャケットの左肩が濡れた。表面のてかてかがぴかぴかした。羽毛もこんな濡れた皮に近寄られては気持ち悪かろうと思った。

駅について友人と別れた。「靴を買わなくちゃ」私は思った。

靴下がぐしょぐしょに濡れていた。濡れている左肩よりずっと濡れていた。靴に穴が開いていたからだ。去年だか一昨年だかの夏に流行った穴ぼこゴムサンダルじゃないけれど、私の靴には穴が開いている。かかとに大きな穴が開いている。私の穴はお洒落じゃない。

前から分かっていた。かかとのところが磨り減っていることも穴が開いていることも。ただ機会がなかった。時間やお金がなかったわけではない。「機会」という名の気持ち向きだ。そういう気持ちがなかった。最近まではこういうものを「面倒」と呼ぶのが普通だと思っていた。ところが社会人はなんでも格好をつけて言い換えるらしい。好きでもなんでもないものを趣味と言ったり、相手に合わせてにこにこ微笑んだりもするらしい。それと同じだ。私ももう社会人だ。

とにかく、ちょうど良かったことにして靴を買った。ダサくて安い靴を買った。1000円札2枚でお釣りがきた。5,6枚の硬貨を受け取った。イケてる高い靴は私には不釣り合いだ。服に着られたり、靴に履かれたりするのは嫌だ。靴に合わせて背伸びするのも嫌だ。

社会人という服に着られるのは良くて、たかだか1万円程度の靴に履かれるのは悪いというのも変だなと思った。体が冷えたせいか頭が痛くなった。