釣り

枕が変わると寝られない。神経質なつもりはないし、繊細なつもりもない。臆病で、なぜだか緊張してしまうのだろう。というわけで、早起きをした。みんなが起きたのに合わせて、起きたふりをした。正しくは早起きじゃない、寝ていないだけだ。

みんなが早起きなのは、朝から釣りをするかららしい。釣りなんて何年ぶりだろう。小学校のころはしたな。中学校のころにはもうした記憶がない。もしかしたら、したのかもしれないが覚えていない。とにかく久しぶりに釣りをした。

糸の先に針をつけ、浮きをつけ、おもりをつけ、えさをつけ、糸をたらした。えさはミミズだった。

糸をたらすとすぐに食いついた。腹が減っているのだろうか。あっという間だった。浮きが浮きの役目を果たすより前に食いつかれるような状況だった。いわゆる「入れ食い」だった。魚を針から外して、またえさをつけた。ミミズに返しのついた針をつきさした。

またすぐ釣れた。小さなブルーギルだ。釣りのイメージが変わってしまう。もっと、のんびりと糸を眺めるものと思っていた。魚は深く針を飲みこんでいた。手の中でびちびちと暴れた。痛そうだった。グリグリと糸を回した。魚は歯医者における私みたいに、じっとしていた。どうしようもない、早く抜いてくれ、声が聞こえそうだった。手は血だらけになった。

ミミズは生きていた。うようよと体を伸縮させて動いていた。それを一匹つかんで、太いところを針にかける。もたつくと、簡単に逃げた。足もないのに、よく動く生き物だ。

ミミズでブルーギルを釣る。ミミズを針にかけ、針にかけたミミズをブルーギルに食わせて、ブルーギルを針にかける。針は返しがついていて、簡単にはとれない。場合によっては、魚の臓器のようなものが飛び出た。一体、誰がどんな風に得するのだろう。おじさんは「つつかれたらすぐ引いてやれば飲みこまない」だとか「すぐには引き上げず、遊ばせて、楽しめ」だとか、そんなことを言った。これを楽しむのか。ひどく残酷な遊びのように思えた。

一時間か二時間か、そこに居た。数えられないほど釣った。大きいやつも居た。私はブルーギルばかりだった。えさはミミズばかりだった。釣った数の二倍の生命をもてあそんだ。釣りはどうも性に合わない。