井上 ひさし『四捨五入殺人事件』
- 作者: 井上ひさし
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1984/06
- メディア: 文庫
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時間に厳しい先生の話
中学生のころ私は吹奏楽部に所属していた。部の顧問は非常に厳しい先生だった。数学と音楽とが大好きな先生で、時間については特に厳しかった。
先生はしばしばこう言った。「考えずに動くな*1。考えてから動くな*2。考えながら動け*3」と。
そんな無茶なと言いたくなるだろう。しかし、そのように否定することは正解ではない。正解はこうだ。返事は「はい」。そして考えながら動こうとする。できるできないではない。できるできないはもちろん大切だ。しかし同時に「やろうという気持ちやその姿勢」もまた大切なのだ。
「できるわけがない」と言ってやらなければできるはずがない。「できるわけがない」だけどやろう・やってみよう。その気持ちや姿勢を大切にすることによって、できる可能性が生まれるのだ。
ある日のことだった。
生徒の一人が5分ほど遅れて部室に入ってきた。その日は本番が近いこともあって合奏練習をする予定になっていた。そんな中での遅刻だった。先生は遅れてきたその生徒にこんな風に言った。
「お前は5分の遅刻をした。お前にとっては5分の損失(ロス)だ。しかし同時にお前は全員の時間を5分ずつ奪った。ここには40人居る。お前は200分もの損失をしたのだ」と。
その当時は無茶苦茶な計算だと思ったが、まんざら間違ってもいないように思った。それというのは今日それと同じようなことを言いたくなった相手が居るからだ。
全員を集めて一声かければ済むものを、一人ずつ呼び出して他の全員を待たせる人間が居たのだ。私には信じられなかった。個人情報などを扱うのなら話は別だ。しかし、そういった様子もない。全員に同じことを、わざわざ個別に話しているのだ。
この人間は時間を稼ぎたいのだ。一定時間働けばいいという考えなのだろう。これを下衆と呼ばずしてなんと呼ぼうか。例えるなら、私を乗せたタクシーの運転手が、料金メーターを回したまま、車を路肩に止めて居眠りをはじめるようなものである。他の人間が話を聞いている間も授業料がその教師に支払われているのだ。どこが授業だ。何の授業だ。そんな能力なら教師など辞めてしまえ。いや辞めろ、すぐ辞めろ。
話がそれてしまった。中学の部活の先生が言いたかったことは簡単なことだ。時間は大切、他人を待たせるのは良くない(多いほど良くない)、そういった常識的なことだ。
ちなみにその部活の先生は遅刻に対する説教を45分続けた。
追記:読んだ本についてやら、現在の教師に対する愚痴(文句)やらを削った方が文章的には綺麗なんだけれども、こればっかりは譲れない。