井上 ひさし『日本亭主図鑑』

日本亭主図鑑 (新潮文庫 い 14-5)

日本亭主図鑑 (新潮文庫 い 14-5)

倉庫の奥から出てきた文庫本である。

女性、特に女房の悪口が書かれている。風が吹けば桶屋がなんとやらくらいの理屈でもって、女性は駄目だと書かれている。作中で何度も書かれているが、亭主図鑑としながらも亭主のことはこれっぽっちも書かれていない。

私の感覚から言えば「そんなのは女性に限ったことじゃない」と思うものがほとんどだった。そもそも、そんな真面目に読むようなものでもなさそうなので、さらっと流す。

それよりも気になったのは時代の違いである。魚婆という行商(魚屋)が出てくるのだが、家に魚を売りにくるような商売を私は知らない。そんなものが昔は居たのだろうか。私が知るのは、わらびもち屋・ラーメン屋・薬屋くらいのものだ。後の二つはもうずっと見ていないし、わらびもち屋でさえ去年一年は見なかったように思う。

「昔は魚屋なんかがあったのか?」と父に話したら、さおだけ屋がどうだの、(建物が低かったので)花火が家から見えただのという話になった。だらだらと話されたあと「色々となくなってしまったなあ」というあたりで話はおしまいになった。

私の生きてきた20年間でも、たくさんのものが消えた。特に印象的なのは駅の改札である。

私が小学生の頃はまだ改札には駅員が居て、切符に判を押していた。今はすべて自動改札だし、ICOCAなどでチャージしてあれば切符さえ持たない。何かを改札で挿入することさえない。ピッ。かざすだけだ。