一日一冊『敵影』古処 誠二

敵影

敵影

今日の一冊は『敵影』古処 誠二。赤い表紙に黒い「敵影」の二文字。表紙に引かれ、手にとった。

舞台は第二次大戦の終わり頃、沖縄の捕虜収容所。元軍曹である一人の捕虜が主人公。彼は病院で世話になった女学生を探している。

意外に思うかもしれないが、この本を読んで『チーズはどこへ消えた』が思い出された。

チーズ〜は、状況の変化を受け入れて乗り越えていくことは良いことだ、ということを書いていた。敵影は背景に「終戦」という状況の変化を置き、それに対する人々の反応を書いている。どちらも「状況の変化」を話の大枠として、もってきている。

結論を強引に押しつけるチーズ〜に比べると、「状況に順応すべきなのは分かっているがうまくできない」そういう様子を描いているこちらの方がずっと好きだ。変化に対応できる主人公では、感情移入が難しい。理屈では分かっていても、実際にはうまくいかない、私はそういうものだと思っているからだ。

一方で、理屈もなしに(もしかするとあるのかもしれないが)、うまく状況の変化に対応できる人も居る。私が読んで、印象的だったのは、最後に出てきた女学生たちだ。チーズ〜で言うところのネズミたちに当たる。彼女らの強さみたいなものを見せられたときの、主人公とそれとの距離感が良かった。

状況の変化に対応できず、見えない敵を作りたがる。実際は、もっと単純なものなんじゃないか。そういう風に言っているように見えて、それがチーズ〜に似ているんじゃないかと思った。税別1500円。1100円くらいかな。悪くない、他も読んでみたい。