一日一冊『オーデュボンの祈り』伊坂 幸太郎

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

今日の一冊は『オーデュボンの祈り』伊坂 幸太郎。『陽気なギャングが地球を回す』を読んで面白かったので「もう一冊」と、図書館で借りた。友人がすすめていたせいもある。電車ですこし読み、残りを今日、ふとんでごろごろしながら一気に読んだ。

粘土細工のような笛を吹く人が描かれた表紙。なにを表現しているのかはよくわからない。ただ、不思議な雰囲気を持っているという点で、内容と一致しているように思った。

未来が見える喋るカカシやら、嘘しか言わない画家やら、人殺しの詩人*1やらがいる、変てこな島に、コンビニ強盗に失敗した主人公が辿りつく。そして、カカシは殺される。主人公は、未来が見えるカカシがどうして死んだのかを疑問に思う。

あらすじを書いても、なんのことだかさっぱりわからない。読まないと分からない。うまく説明できない。面白さを伝えられない。これはすごく良いことだと思う。少なくとも表紙にひどいネタバレがあったり、あらすじがあれば読む必要がないというものよりは良いと思う。

先にも書いたが、とにかく「変てこな島」なのだ。物語が「変てこ」の上に、さも当然のように成り立っているのだ。たとえば、「人の言葉を操るカカシが殺される話を書いてるんだ」なんて、私が友人に言おうものならば「ついに頭がおかしくなったか」と思われるに違いない。その不思議な舞台にひかれた。

どんな風にこれは書かれたんだろうと想像した。主人公は、島を歩き、変てこな人を見て、会話して、そして、カカシが死んで……と話は続いていくのだけど、最初からカカシが話の大筋だったのかなと思う。舞台を先に作って、登場させたい変なものを決めて、面白いと感じた話をいくつか書いて、最後にそれを貫くように、一つにできるように、カカシの話でまとめた。それというのは、主人公と島民との会話が、ちょこちょこと面白いからだし、カカシを中心に、それらの断片としか思えない情報がうまくまとまっているからだ。

良かった。税別629円。800円でも買う。

*1:詩を読んでいるのは詩人と言っていいのかな