一日一冊『ノルウェイの森 上』村上 春樹

ノルウェイの森 (上) (講談社文庫)

ノルウェイの森 (上) (講談社文庫)

今日の一冊は『ノルウェイの森 上』村上 春樹。読むことになったきっかけは新聞の連載「風の歌」で、この本の装丁が取り上げられていたことから。(おそらく取り上げられていたのは文庫本の方ではないと思う)

カバーデザインは、どうやら菊地信義さんみたい。『新・装幀談義』の人。にじむような、切り絵のようなフォントで書かれた「ノルウェイの森」に赤い三本の波線。緑の白抜き文字で「上」。白・緑・赤のシンプルなデザイン。

主人公はワタナベという男。三十七歳。主にこの男の回想が話の中心らしい。ワタナベの視点で話は進んでいく。直子という女が登場する。冒頭から推測するに、きっとこの女は死ぬんだろう。ワタナベとは恋人のような恋人でないようなよくわからない関係。この二人を描いた物語だと思って読み進めている。

まだ、内容をよく理解していない。正直なところ、どうして読み切れたのかわからないほどにパッとしない話だと感じている。冒頭のあと、すぐに二十年ほど前の回想にはいり、そこから、だらだらとした主人公の生活が描かれる。「突撃隊」と呼ばれていた主人公の寮の同居人の話みたいに、面白い部分はたくさんあるんだけど、全体の流れとしては、正直なところパッとしない。それでも、こんな風に読み切れるのは表現の面白さか、文体の読み易さか。なんだろう。

税3%込みで400円。税抜388円。下巻読んでから値段は考えたい。

本の感想からは外れるのだけど、私は、明らかに、他人を意識した読書をしている。そして、それを恥ずかしいことだ、情けないことだと感じていて、さらに友人は私よりも優れていて、私は友人より劣っていると感じている。

それを象徴するような話。

友人が、相変わらず下手で内容のない私の感想をひどくバカにした口調で部分的に読み上げた。私は平静を装いながら、「『パラレルワールド・ラブストーリー』の分か。この前読んだんだ」とそんな風に返した。すると彼は「僕は東野圭吾は読んでない。東野圭吾村上春樹は読んだら負けな気がしている」そんなことを言った。

彼の口から「村上春樹」の名前が出た瞬間、私はギクリとした。二人にどんな関連があるのか知らないが、偶然にもかばんのポケットには『ノルウェイの森』が入っていた。とてもじゃないが、それを言い出せる雰囲気になかった。

彼の言う「読んだら負け」を綺麗にたどっている私がひどく情けなく感じたからだ。

きっと、このことを彼に言えば「好きなものを読めばいい」なんてことを言うんだろう。彼の「読んだら負け」には、蔑みの感情をいくらか含んでいたように感じられた。これは私が彼よりも本を選択する能力において劣っていると感じているからに他ならない。

そして、一冊の本から生まれる感情というか、感想のようなものの厚みが違うように感じている。入力・処理・出力のどれをとっても、勝ち目がないとも感じている。これも彼に言わせれば「比較するものではない。勝手に楽しめば良い」ということになりそうだ。私はどこまでも他人を意識した読み方で、純粋に読書を楽しむ態勢にないのかもしれない。

ちなみに、彼の勘が良いのか、私の選択が、ありふれたものなのかは分からないけど、パラレルワールド〜は書店でふと手にとったもので、ノルウェイの森は随分前から図書館で予約していたものだ。きっかけも、入手ルートも違う。それぞれに関連性はない。著者に対するこだわりもないので、彼が挙げたのは、きっと偶然だろう。